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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和61年(行コ)4号 判決

控訴人

中間サカエ

右訴訟代理人弁護士

向和典

木山義朗

樋高学

被控訴人

鹿児島地方法務局登記官

平郁夫

右指定代理人

浅野秀樹

外六名

主文

原判決中表示登記の抹消登記処分の取消に関する部分を取り消す。

右取消に係る部分の訴えを却下する。

本件控訴中その余の部分を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

一  控訴人

「1 原判決を取り消す。2 被控訴人が昭和六〇年九月五日付で、(1)原判決別紙物件目録一及び二記載の各建物についてなした同四六年八月三〇日合棟を原因とする建物表示登記の抹消登記処分、(2) 同目録三記載の建物についてなした同四六年八月三〇日合棟及び同五八年四月三〇日種類変更増築を原因とする表示登記処分を、いずれも取り消す。3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決

二  被控訴人

(本案前の申立)

「1 原判決中表示登記の抹消登記処分の取消に関する部分を取り消す。2 右取消に係る部分の訴えを却下する。3 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決

(控訴につき)

「1 本件控訴を棄却する。2 控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決

第二  当事者双方の主張及び証拠

当事者双方の主張は、次に付加、訂正する外は原判決事実摘示のとおりであり、証拠の関係は本件記録中の原審及び当審における証拠関係目録記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

一  原判決の訂正

原判決一三枚目裏三行目「1、2の各事実はいずれも」を「1、2の事実中、甲建物と一三センチメートルの間隔をおいて乙建物が建築されたこと及び甲、乙各建物間の空間部分に接続工事が施されたことは否認し、その余は」と改める。

二  当審における追加的主張

1  控訴人

控訴人は、原判決別紙物件目録三記載の建物(以下「本件丙建物」という。)につきなされた本件表示登記処分の取消について、次のとおり訴えの利益を有する。

(1) 同目録一及び二記載の各建物(以下「本件甲乙各建物」という。)につきなされた本件抹消登記処分と本件表示登記処分とは不可分一体の関係にあり、且つ前者が後者の先決関係をなしているから、前者のみならず後者の取消についても控訴人は法律上の利益を有する。

(2) 控訴人は、本件甲乙各建物についての仮差押権者であるが、本件丙建物についてはその所有名義が仮差押当時の債務者から第三者に変更されており、控訴人と右所有名義人たる第三者との間には直接の契約関係がないことから、新たに右第三者に対して処分禁止の仮処分をすることは困難であり、控訴人が権利を回復するためには、本件表示登記処分の取消を求める以外になく、従ってこの点からも控訴人の訴えの利益が肯定される。

(3) 請求の理由の有無について未だ判断していない訴訟の入口の段階において、本件抹消登記処分の取消請求が認容される場合のみを想定し、右取消請求が認容されることによって本件甲乙各建物の表示登記は回復され、控訴人の仮登記も回復されるとともに本件丙建物の表示登記は申請又は職権によって抹消され登記用紙が閉鎖されることとなるから控訴人の権利回復はそれだけで充分であるとして、本件表示登記処分の取消について訴えの利益を欠くとすることは許されない。

本件表示登記処分取消請求という訴訟物の前提問題であり先決問題でもある本件抹消登記処分取消請求という訴訟物について、棄却する旨の判断をするのであれば、かかる判断を前提とした上で、前者についての訴えの利益の有無を判断すべきである。

2  被控訴人

本件仮差押決定は、合棟前の本件甲乙各建物に対してなされたものであるが、右仮差押決定当時、本件甲乙各建物は本件丙建物の一構成部分と化して権利の客体となり得る不動産としては存在しなかったものであり、従って、本件仮差押決定は、権利の客体としての独立性を欠いて法律上滅失した建物になされたものとして無効である。

しかも、控訴人は、本件丙建物について何らの仮差押決定も得ていないのであるから、控訴人には本件各登記処分の取消を求める法的利益はなく、本件訴訟につき原告適格を欠くものであるから、本件訴えは不適法であって却下されるべきである。

理由

当裁判所は、控訴人の本件訴えはいずれも不適法であるから却下すべきものと判断するが、その理由は次に付加、訂正する外は、原判決理由一乃至三(原判決一六枚目裏三行目から同二〇枚目裏一一行目迄)説示と同一であるから、これを引用する。

1 原判決一六枚目裏一四行目「両者」の前に「法律上、」を加え、同一七枚目表一三行目「ものではない」を「ものではなく、控訴人が侵害されると主張する利益はすべて事実上の利益に過ぎない」と改める。

2  同一八枚目表八行目「三」を「四」と、同九行目「1、2の各事実」を「1、2の事実中、甲建物と一三センチメートルの間隔をおいて乙建物が建築されたこと及び甲、乙各建物間の空間部分に接続工事が施されたことを除くその余」と、それぞれ改める。

3  同一八枚目表一〇行目「右事実」から、同裏一二行目末尾迄を「右争いのない事実に、〈証拠〉によると、(1) 本件甲建物は、昭和三九年九月一〇日頃、訴外株式会社東京ゴム(以下「訴外会社」という。)が、その所有する鹿児島市松原町一四番二三宅地211.43平方メートルの土地の南西側道路に面した位置に建築した、間口7.6メートル、奥行10.92メートルの軽量鉄骨造二階建の建物であって、一階部分は作業所、二階部分は従業員の休憩所兼事務所及び作業所として使用され、同四五年頃、同一敷地内の北東側の位置に曳行移転されたが、建物の種類、構造、床面積等には何ら変更はなかった、そして本件甲建物は、作業所として使用する目的上、一階部分については南東及び北西の両側面並びに南西側面(幅員7.6メートル)の内約2.7メートルの部分(二階部分の直下に事務所を設けた部分)に障壁が設置されたのみで、その余の部分には障壁が設置されなかったが、二階部分については四囲に障壁が設置され、また二階への階段は建物中央付近に設けられていた、(2) 本件乙建物は、同四六年一月三〇日頃、訴外会社が、前記のとおり本件甲建物の曳行移転された跡に、本件甲建物から約一三センチメートルの間隔をおいて、間口8.1メートル、奥行13.5メートルの重量鉄骨造二階建の建物として建築したものであって、一階部分は自動車タイヤの展示場兼交換作業所、二階部分は倉庫として使用されていた、そして本件乙建物は、一階部分については南東及び北西の両側面にのみ障壁が設置され、北東及び南西の両側面には障壁は設置されていなかったが、二階部分については全面に障壁が設置されていた、また本件甲建物と本件乙建物との間には約一〇センチメートルの段差があった上、雨水等を流すための幅員約一〇乃至一五センチメートルの溝も設けられていた、(3) 本件乙建物の出入口は南東側(本件甲建物側)及び北西側にそれぞれあり、本件甲建物と一体となって利用しなければならない必要性はなく、当時の訴外会社の代表者中間博行も両建物は別個独立の建物と認識し、本件乙建物を独立の建物として登記した、(4) 訴外会社は、昭和五八年一月頃から同年六月頃迄の間に、本件甲乙各建物の合棟工事を、本件甲建物の北東側の増築工事とともに行ったが、その内容は、先ず合棟工事として、① 本件甲建物の南西隅の柱と本件乙建物の南東隅の柱との中間に鉄骨の柱を設置し、これらの柱を横に三段にわたした厚さ約五ミリメートル、縦約五センチメートル、長さ約四〇センチメートルのC型鋼三本と電気溶接して連結固定し、本件甲建物の北西隅の柱と本件乙建物の北東隅の柱も同様にして連結固定し、また壁については、軽量鉄骨の柱を本件乙建物の道路側から本件甲建物の北東側の増築部分(以下「増築部分」という。)迄連続して等間隔に立て、内壁が柱に接続するように補強した上プラスタ・ボードを張り、外壁は本件甲乙各建物を通じて断熱材のグラス・ウールを張った上波型スレート板で覆うという各工事を、②床については、本件甲乙各建物の中間の溝を埋め、一階床面の段差を取り除いて同じ高さとした上で、コンクリート、リノリュームを敷き詰めてワンフロワーとするという工事を、③ 屋根については、本件甲乙各建物の接続部分に水を弾く材料を敷いた上トタン板で覆うという工事を、それぞれ施し、次いで、本件甲乙各建物を一体として利用するための工事として、右両建物の二階部分の隔壁の一部を除去して、その部分を床面を接続させて扉を設置して、本件甲建物に設置されていた階段を除去し、また右両建物及び増築部分を一個の建物とする消防設備も施した、(5) 合棟工事の結果、本件甲乙各建物の柱、壁及び屋根は完全に接続され、本件甲乙各建物及び増築部分の一階床はワンフロワーとなり、その結果、本件甲建物の二階には本件乙建物のみからしか行けず、本件甲建物には本件乙建物及び増築部分を通る以外出入口はなく、便所も本件甲乙各建物及び増築部分を通じて一個しかないこととなって、右両建物は構造上の一体性及び利用上の一体性を有することとなったが、これは、小売業を営む訴外会社が本件甲乙各建物を一体の店舗として利用するためになしたものであって、現に本件甲乙各建物及び増築部分は一体の建物として利用していたし、本件甲乙各建物は一体として独立の経済的価値が認められる、以上の事実が認められ、〈証拠〉中これに反する記載部分はたやすく措信し難く、他にこれを覆すに足る的確な証拠もない。」と改める。

4  同一八枚目裏一三行目「本件甲乙」の前に「右事実によれば、」を加え、同一九枚目表一三行目から同裏四行目迄を「控訴人が昭和五九年三月六日本件甲乙各建物につき仮差押命令を得て同月八日これに基づき仮差押登記が経由されたこと(本件仮差押)は当事者間に争いがないところ、先に認定したところによると、本件甲乙各建物は、右仮差押命令の当時既に合棟工事により独立の単一不動産としての存在を失っていたものというべきである。してみると、右各仮差押命令は、不存在の不動産に対するそれと同様に、いずれも当然に無効であって、その仮差押債権者である控訴人は、本件抹消登記処分により侵害されるべき法的利益を有しないものといわなければならない。したがって控訴人は、本件抹消登記処分の抗告訴訟につき原告適格を有しないから、右訴訟は不適法として却下すべきである。」と改め、同二〇枚目裏六行目から同一一行目迄を削る。

そうすると、原判決中本件表示登記の抹消登記処分に関する部分は不当であるからこれを取消して右部分の訴えを却下し、本件表示登記処分に関する部分は相当であって、この部分についての本件控訴は理由がないから棄却することとし、民事訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官野田殷稔 裁判官澤田英雄 裁判官郷俊介)

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